----中国吉林省延辺州延吉市の子供達とのface to face のインターネット囲碁対局----
2003年5月に中国吉林省延辺州延吉市より囲碁を通しての国際交流の提案があり、2003年11月30日(日)に、子供同士のインターネット対局が実現しました。ここに、時系列的にご報告させていただきます。
経緯 |
◆横須賀市の囲碁
囲碁は中国で生まれ日本で開花した歴史あるゲームで、世界の囲碁は日本語が共通語になっているほどです。横須賀市では一般参加のの囲碁大会は2ヶ月に一度の頻度で開催され、毎回130人ほどの囲碁愛好家が参加しています。一方、最近日本では、囲碁の人気漫画「ヒカルの碁」に触発されて多くの子供達が囲碁を打ち始め、横須賀市においても昨年6月横須賀市中央図書館主催で小学生囲碁教室が開催されて以来、子供囲碁教室、子供囲碁大会、小学校の囲碁クラブなどに多くの子供たちが参加しています。一般の囲碁大会は2ヶ月に一度の頻度で開催され、毎回130人ほどの囲碁愛好家が参加しています。
◆囲碁のメリットの応用
囲碁は手談とも言われ、コミュニケーション・ツールとして有効です。奥が深いと言われる囲碁は、戦略的に、集中して打つなどの能力が要求され、右脳を刺激する、直感力を養う、総合学習における「自分で考え自ら行動する」子供達の思考訓練になる、ボケ防止になるなど、多くの囲碁のメリットが挙げられています。最近では、これらのメリットをビジネスを含む人的交流、生涯学習、総合学習、国際交流などに活かす動きが出て来ました。
◆(NPO)横須賀国際交流協会と(財)横須賀産業振興財団との共催で
このような時期に延吉市の囲碁団体「延吉囲碁会館」から単なる囲碁だけではなく幅広い交流が可能かも含めて囲碁交流の打診があり、横須賀市役所の関係の方々にもご相談した結果、当初は11月30日(日)の横須賀国際交流協会が主催するジャパン・フェスティバルの一環として横須賀産業振興財団と共催で行う予定でしたが、接続試験に時間がかかったことよりジャパン・フェスティバルの一環として実施するのが間に合わなくなり、最終的には(NPO)横須賀国際交流協会と(財)横須賀産業振興財団との共催、横須賀囲碁連盟の協力で両市の子供達同士のとのインターネット対局を産業プラザで行うこととなりました。
◆なぜ延吉市か
横須賀市には外国人は4500人ほどが登録され、その内中国人は600人ほどです。中国出身の蘇耀国七段の後援会活動、横須賀国際交流協会の日本語教室活動で延吉市出身の韓国系中国人の金鉉権ご夫妻との出会いから始まります。金鉉権さんは囲碁はあまり強くないけれどコンピュータに強い技術者で、日本に来られて5年ほどで日本語は上手です。横須賀囲碁連盟の国際親善を含む囲碁活動方針をお話しているうちに延吉市の囲碁クラブ「延吉囲碁会館」との出会いが始まりました。囲碁のメリットです。
接続試験 |
◆最初の実験
子供同士の対局をどのように進めるかを考慮中のときに、防衛大の前嶋先生(中国語教授)の研究室を金鉉権さんと訪ねる機会があり、研究室では中国語教育環境の一環でビデオチャットのセットがあることを知り、これを使ってMSN
Messenger とインターネット碁を組み合わせて延吉市とネット対局の試験を行うこととしました。中国サイドと環境を同一にするために日本側は中国語Windowsをインストールし、インターネット碁会所は中国語のサイトにしました。結果は、ビデオは見えましたが音声が通リませんでした。研究室が大学のLAN環境ですので音声が通らなかったのはセキュリティの関係かもしれないということで今後の検討課題となりました。
◆二度目の試験
二度目は2003年8月23日の横須賀中央図書館主催の「夏休み小学生囲碁教室」でした。防衛大のLAN環境を避けて、金鉉権さんの家と児童図書館とをADSL回線で結びインターネット対局を行いましたがやはり音声が通リませんでした。このときの環境の問題として児童図書館では1階ADSLモデムから2回のパソコンまで50mほどの距離がありましたので音声問題の切り分けができませんでした。
この間、国内の一般家庭間のADSL回線経由ではMessengerとインターネット囲碁対局との組合せ実験はうまく行くことを確認しました。
◆三度目の正直
三度目は、上述の産業プラザで実施することが決まった後、実際のデモ環境と同じ条件で試験することでした。特に、産業プラザは光回線が導入されていますので若干ADSL回線と接続条件が異なります。事前に光回線接続を確認した後で、実際に2003年11月1日(土)に金鉉権さんに来ていただいてADSL回線の延吉市と接続試験し、ビデオチャットしながらインターネット囲碁対局ができることが確認できました。
◆最後の調整
その後、Messengerを利用した実験を続けているうちに、ビデオチャットが安定に動作しないことがあることが分かりました。原因の一つに、Messengerを使用するパソコン同士のWindowsのOSのバージョンが異なったりすると品質に問題がある場合があることを知りました。このため、最近、インターネットTV会議システムの製品分類に属し、ビデオチャットをビジネス環境で使い勝手よく利用できるようにした製品が普及しつつあり、たまたまNTT−IT社のMeetingPlazaの製品が中国版もありお試しサービスをしていることからご協力を頂きました。何度か実験してみると、若干品質が改善され、操作性もよいところから本番で使用することとしました。
デモ本番のプログラムの調整 |
上記の実験を繰り返しながら、デモ本番のプログラムを中国と調整し決定しました。主なポイントを以下に述べます。
◆目的、および全体の進め方
中国文化に造詣の深い防衛大学の前嶋先生と延吉市出身のコンピュータ技術者の金鉉権さんにご相談しながら全体計画を練ることができたのは幸運の一語に尽きます。囲碁を通じての国際親善が可能か先ずは体験してみて、そのなかから可能性を探ることを目的に進めることとしました。
◆竹清勇三段(日本棋院プロ棋士)の解説
デモのメイン・イベントとして、小中学生のころ横須賀で強くなられた竹清勇三段(日本棋院プロ棋士)に来ていただくことにしました。竹清三段も快く引き受けてくださいました。竹清三段は若い前途有望な棋士です。
◆時差、文化の差の吸収
デモの時間は日本時間で12時から14時で、延吉市との時差は1時間あります。特に昼食は、中国ではお弁当とか、コンビニのオニギリに相当する食事とかの習慣がありませんので、第1局目を中国の昼食前に、日本の昼食後に行い、その後、中国側の代表者と日本の代表者の顔合わせを行うこととしました。
◆対局する小学生
日本側は、児童図書館に日頃通っている子供達で強くなっている以下の3名を選びました。三浦市に強い子がいるので打たせてもらえないかの問合せがありましたが、時間が余れば参加してもらうことにしました。
・長門元太 粟田小学校5年 1級
・植松勇太 鴨居小学校3年 1級
・嶋瀬 拓 明浜小学校4年 5級
中国側は国も広いし、集まるのがたいへんなこともあり2名が選出されました。
・柳 豪 小学校6年
・赴 域 小学校6年----プロ棋士志望
◆延吉市にゆかりのある人のご紹介
延吉市にゆかりのある方が何人か見つかりました。世界も狭いなの感じを抱くとともに、両市の不思議な関係を改めて認識しました。
・小堀さん----延吉市役所に勤務されていた中国人女性。来日して数年が経ち、日本人と結婚されていて日本語も堪能。デモでは、草の根市民交流の象徴として、延吉市の紹介とビデオチャットで、かつての上司の文さんと会話していただくことをお願いいたしました。
・細谷さん----戦前、吉林省に住んだこともあり、最近、お友達と吉林省を訪ねたときのビデオに延吉市が写っていたのでビデオの紹介をしていただくことにしました。
広範な交流の可能性 |
囲碁を通じて広範な交流ができるかの一例として、延吉市側からはビジネス情報の提供が可能との話があったので、横須賀市側でも横須賀商工会議所、横須賀市産業振興財団、市役所企画調整部などにご相談し、横須賀市への公開のアクセス情報、日中交流企業・個人情報の紹介を行いました。特に、延吉市側からの提供された資料は以下です。
・延吉投資指南 A4 2頁 中国語/英語
INVESTMENT GUIDE
・延吉投資案内 B5 12ページ 日本語
・長白山熊胆粉 110mmmx85mm 小冊子 韓国語/中国語/日本語
CHANGBAISAN BEARGALL
デモの時の両市の挨拶交換 |
(写真をクリックすると拡大写真が現われます)
対戦結果 |
中国側の3戦3勝でした。
・長門元太(黒) : 柳 豪(白) 互先 白5.5目勝ち
・植松勇太(黒) : 赴 域(白) 互先 白98.5目勝ち
・嶋瀬 拓(黒) : 赴 域(白) 五子 白5目勝ち
(竹清三段の講評)日本の子供たちも前半はよく打っていますが、中国の子供達は中盤以降、特にヨセがしっかりしているようです。
新聞報道 |
デモ前の読売新聞に、デモ後の読売新聞と毎日新聞に掲載して頂きました。特に、毎日新聞では全国頁に掲載され、今回の報道で囲碁愛好家の方から問合せや励ましのお便りを頂きました。ありがとうございました。
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2003年11月15日(日) 読売新聞朝刊 ローカル頁 |
2003年12月1日(月) 毎日新聞朝刊 全国頁「雑記帳」欄 |
2003年12月1日(日) 読売新聞朝刊 ローカル頁 |
考察、および今後の課題 |
◆考察
(1)全体的に
・多くの方のご協力が得られて面白い体験ができたと思います。
・囲碁のもつメリットの応用として人的交流、ビジネス情報の交換などが体験できたと思います。
・市民レベルの草の根的国際交流、子供達の国際性が芽生えるかの体験ができたと思います。
(2)回線、サービスの接続性について
・ビデオチャットの音声、映像、特に音声が途切れたのは、中国側のADSL回線速度が1Mビット/秒とのことでしたのでスピード不足(?)、また、当日は日曜日だったのでインターネットが混んでいたことも原因だったかもしれません。この辺のデータがあれば参考になります。
・Windowsのバージョン差の影響を吸収するためにNTT-IT社の商用システムであるMeetingPlazaのお試しサービスを利用させていただきました。ここに、NTT-IT社殿のご協力に感謝いたします。この製品は多地点間のインターネット会議ができるのが特徴ですので、多面打ちの団体戦で使えると特徴を活かせると思いますが、今後の利用の仕方の整合性チェックが必要と思います。
・品質や使い勝手よく、市民レベルの交流ができるビデオチャットがあるといいと思います。
(3)進め方など
・デモは、横須賀国際交流協会のジャパンフェ・スティバルと並行して実施することで進めましたが接続試験に多くの時間がかかってしまい、関係者の協力が得られるような十分な事前説明ができませんでした。
・このような企画に誰が関心を示し参加協力していただけるか、どんな体制を組んで進めるか、どんな雑事が発生するかなどよい体験ができたと思います。
・PRという面では、読売新聞社殿が事前に掲載していただき、また、毎日新聞社殿がデモを全国ページに掲載していただき、かなりの方に関心をもっていただけたことは幸運でした。両社に感謝いたします。
(4)費用など
今回の企画には若干の費用が発生し、横須賀囲碁連盟としての支援を行いました。横須賀囲碁連盟の支援は、市民大会に集まる囲碁愛好家の方々の参加費から捻出しています。ここに、囲碁愛好家の方々に感謝申し上げます。
◆今後の課題
今回のデモは多分、世界的にも始めてだと思いますので、先行的な貴重なデータが得られ、当初の目的は達成できたと思います。今後、どのように進めていくべきか課題は山積しています。課題は上述の考察の中に埋もれていますが、今後、今回のデモに対する関係者の方々のご意見を集約して、知恵を生み出していきたいと思います。課題としては以下があります。
・子供、大人の参加できる囲碁国際交流のあり方
・支援体制
・実現する場所
・対局環境
・費用、などなど
終わりに、再度、ご協力いただいた中国延吉市の方々、横須賀の方々に感謝いたします。また、今後とも、ご支援ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
(注)今回のイベントにご意見などありましたらご遠慮なくお寄せください。
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